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第105話
薬研でゴリゴリと薬草をすり潰す雪也は、チラと釜の前に立つ周に視線を向けた。
最初は米を炊くにもあたふたとしていた周だが、もともと器用なのだろう、少しすればすっかり失敗もなく米が炊けるようになり、その間に他の総菜も作るようになった。近頃では一人で買い出しに行き、蒼や店先の女将に色々と簡単かつ安くて美味しい料理の作り方を教わっては実践しているらしい。おかげで今では雪也よりも器用に食事を作るので、少し寂しい気もするが食事全般は周に任せっきりになっている。
(ま、周が嬉しそうだから、それで良いけれど)
きっと料理をすることで周はここに居る意味を見つけているのだろう。彼が楽しそうであるならば何も言うまいと、雪也は少し微笑んで薬研に視線を落とした。
薬包を幾つも作って、それを箱に入れると風呂敷で包む。そして端に避けていた別の薬包を引き出しの中へ仕舞った時、庵の外で馬の嘶きが聞こえた。雪也も周も、揃って顔を上げる。
「弥生兄さま?」
慌てて立ち上がった雪也が小走りに扉へと向かう。そっと外を覗けば、やはり数日留守にすると言っていた弥生たちが立っていた。
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