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第106話

「雪也、久しぶりだな。周は中か?」  変わらず優しい笑みを浮かべて雪也の髪を撫でる弥生に、雪也は照れながらも頷く。優も紫呉も久しぶりだと視線を向けた時、雪也は紫呉の側に知らない青年が立っていることに気が付いた。誰だろうかと首を傾げるが、弥生たちが連れてきた者であるなら不審な者ではあるまい。 「お急ぎでなければ、中でお茶でも」  やんわりと促す雪也に弥生も頷く。庵の中へ入れば、見知らぬ人がいると気が付いたのだろう、周が雪也の背に隠れた。その様子に青年が唇を噛む。 「ちょっと待っててくださいね」  周はピッタリと雪也にくっついているが、雪也は慣れているのでそのまま何も言わず茶の用意をする。全員分を盆にのせて弥生たちの元へ戻り、一人一人に茶を渡した。しかし青年は着物に包まれた何かを持っている為、茶を受け取ろうとしない。雪也はそんな青年に一瞬首を傾げたが、何も言わずに青年の前に茶を置き、自らも弥生の側に座る。周は相変わらず雪也の背中に引っ付いているが、雪也は気にすることなく周にも茶を渡した。 「急にすまないな。少し、雪也に頼み事があって来た」  弥生からの頼み事など珍しい。雪也はほんの少し目を見開いて、次いで優しく微笑むと頷いた。 「僕にできることでしたら」  まだ頼み事が何かもわからないというのに嫌な顔も見せず受け入れる雪也に弥生は苦笑しながら、大切そうに着物に包まれたものを抱きしめている青年に視線を向けた。

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