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第107話

「彼は由弦と言うらしい。紫呉が峰藤で口説いたようだ」 「おーい、なんか色々間違ってんぞー」  弥生の言葉に紫呉が間延びした声で否定するが、弥生は悪びれる風もない。優などは完全に我関せずを貫いて茶をすすっている。そんないつも通りの三人に苦笑しながら、雪也は由弦と呼ばれた青年を見た。  年のころは雪也よりも少しだけ上だろうか? それでも同年代と言って差し支えは無いだろう。少し明るい茶色の髪を適当に後ろで結んでいるが、雪也のように長さがないのでピョンピョンと外に跳ねている。衣は紫呉のものだろうか? どうにも着られている感があった。 「彼をこの庵に住まわせてもらえないだろうか。屋敷で、とも考えたんだが、お偉い人のお屋敷は眠れる気がせんと言うのでな」  弥生の言い方を見るに、おそらく由弦はそのまま言ったのだろう。どう見ても裕福な家の者である弥生にそれだけのことが言えるなら春風の屋敷でも十分に眠れるのでは? と雪也は思ったものの、それは賢明にも口には出さない。 「彼が良いと言われるのでしたら、僕は構いません。元々この庵は弥生兄さまの好意で住まわせてもらっているものですから、兄さまのご随意に」  頷く雪也の背に周がそっとしがみつく。大丈夫だと周の手を撫でた時、由弦はどこか苦々しく顔を顰めた。 「無理なら、言ってくれ。俺は別に是が非でもここに住まないといけないわけじゃねぇし。それに、紫呉たちが大丈夫だったからって、こいつらも大丈夫かなんてわからない」  守るように、すべてから遠ざけるように着物に包まれたものを全身で抱きしめる。

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