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第108話

「紫呉は憐れんで俺を誘ってくれたんだろうけど、でも俺は大丈夫だ。独りじゃないし、誰にも頼らずに生きていくことだってできる。もう慣れっこだからな」  その言葉にピクリと、周の指が震えた。まるで胸を鷲掴みにされたかのような、鈍い痛みを覚える。  少なくとも自分の態度が由弦を傷つけたと分かっているから、余計に周は顔を俯けた。  周は人見知りだが、人を傷つけたいわけじゃない。そんなことはできない。  傷つけられるのは、痛いから。  どうしよう、と唇を噛む周が見えたわけではないだろうが、助け舟を出したのは弥生だった。彼は自信に満ちた笑みを浮かべている。 「おい由弦。あまりこの子達を侮ってもらっては困るな。雪也も周も、サクラを〝恐れる〟ほど器の小さい男ではない」  はっきりと言い切る弥生に由弦は視線を彷徨わせる。静かに話を聞いていた雪也と周はコテンと首を傾げた。 「サクラ?」  何のとこだろうと不思議そうにする二人に由弦はしばし迷う素振りを見せたが、やがて観念したようにため息をついた。  もしも雪也や周がサクラを見て少しでも嫌そうな顔をしたら、すぐにサクラを連れてここを出る。そんなことを頭の中で何度も呟きながら、ゆっくりと持っていた着物をそろりと避けた。やっと煩わしいものが無くなったと思ったのだろう、中に包まれていたサクラがブルリと大きく頭を振る。その姿に、雪也と周は思わず顔を近づけた。

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