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第110話
「クッッ、な? 誰もバケモンだなんて言わねぇよ。最初から言ってんだから、んな驚くこと無いだろ? フッ、クククククククッッ」
「紫呉、ぜんぜん堪えられていないんだから、もういっそ笑いなよ」
優の言葉が許しになったわけではないが、紫呉はもはや噛み殺すこともできず豪快に笑った。そんな紫呉に由弦はムッとして睨みつける。
「んなに笑うことないだろ! だって、向こうじゃ誰も彼も嫌な事ばっか言って、石を投げられたことだってあるんだから、普通は警戒するだろ!?」
楽観視してサクラが傷つけられたらと思えば、警戒する由弦の態度こそが正しいのだと言い募るのに、紫呉は「わかった、わかった」と言いつつも笑いが治まる気配はない。まるで由弦が臆病だと言われているようで納得できず、幼子のように唇を尖らせるその姿に弥生は小さく笑った。
「己が知らぬものに対して恐怖を覚えるのは仕方のないことだ。それは人間の弱さからくる。怖いと思い、その先をどうするか。それが分岐点と言っても良いだろう。器の小さな者は攻撃し排除したがるが、器の大きなものは見定め許容する。お前が知っている者達と雪也達の違いはそれだけだ」
雪也は先程、ネコと間違えていたとはいえ、確かに〝見るのは初めて〟だと言った。雪也にとっても周にとっても、サクラが未知の存在であることには変わりない。だが弥生には確信があった。
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