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第112話
紫呉とよく似て元気いっぱいの、少々生意気に見えた由弦であったが、サクラを守るように抱きしめ身体を丸めるその姿はひどく小さく、孤独に見える。サクラが大切で、守らなければ守らなければと片意地張って生きてきたのだろう。何一つ傷つく言葉は聞かせたくないと思うあまり、優しさを信じることができない。そんな由弦を皆が見つめた。
「ならば今から知れば良いではないか。まだまだ若造と呼ばれる私よりも歳は下であろうに、すべてを知ったと思うには早すぎる。それに、この庵は存外お得だぞ? 雪也達がいるからすぐにでも生活はできるし、雪也はどれだけ眺めても飽きることのないという稀有な美人だ」
「周の作る飯も美味いしな」
「なんならおまけで、このうるさい紫呉もちょくちょく顔を出すしね」
「うるさいは余計だろうがよ」
とても良いことを言っていると思うのに、弥生はどうしても最後は本気か冗談かわからない微妙なボケを入れ、優と紫呉がそれにさも当たり前と言わんばかりに乗っかるので、気が付いたらいつもの何がなんだかわからない穏やかで少しおかしい空間が広がる。それに慣れている雪也と周は、またいつものが始まったと苦笑するが、まだ慣れていない由弦はキョトンとして固まっている。そしてなんともぎこちない動きで雪也を振り返ると、弥生たちを指さした。
「あいつら、変」
あの三人にそのようなことを言ってのける由弦に周は勢いよく顔を背けプルプルと肩を震わし、雪也はクスリと笑った。
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