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第123話
この国に貧しき者がいることは把握している。己の暮らしが今も昔も恵まれていることも。だが茂秋は彼らの何をも知らない。見たことも無いのだ。弥生の言うことはどこか遠くにある悲惨な物語のように聞こえるが、そのすべてが茂秋と同じ時間を生きる者達が味わっているものだ。
「彼らを生かすのは彼ら自身ですが、彼らを生かすのは我らでもあります。将軍たる上様が否とは申さぬと仰せになってくださるのであれば、民にとってそれは間違いなく光となりましょう」
あなたは国という大きなものを動かすことのできる将軍なのだ。そう言う弥生に、茂秋は胸に刻むように瞼を閉じ、ゆっくりと頷く。ふわりと柔らかな風が茂秋の衣を靡かせた。
「いつか余も会ってみたいな。そちが夢を託す、庵の者達に」
どのような者達なのだろう。弥生のように思慮深いのか、弥生の側近である優のように先々を見るのだろうか、あるいは、護衛の紫呉のように快活であるのか。
瞼の裏にまだ見ぬ青年たちの姿を思い浮かる茂秋に、弥生は柔らかく微笑み頷いた。
「ええ、ぜひ。その時は、お忍びで」
その日を待ち望むように、茂秋は茶を持ちながらひとつ頷いた。
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