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第133話
「大丈夫ですか? 怪我をしたと聞いたのですが、もしかして足も挫いてしまいましたか?」
怒鳴り散らす男を完全に無視した雪也の行動に、男はもちろん、声をかけられたお小夜も、周りにいた野次馬達も皆が動きを止めてしまう。シンと静まり返ったその場に気づいているはずなのに、雪也は何も見えていないというかのように地面についていたお小夜の手を取った。
「あぁ、手も擦り剝いていますね。こんなに血が流れて、痛かったでしょう?」
場違いなほどに穏やかな口調で話す雪也に、しかし放心状態のお小夜は何を返すこともできない。地面にカゴを置いて何やら準備を始める雪也に、背を向けられた状態になった破落戸の男は我に返り、カッとなったように顔を真っ赤にして刀を振り上げた。お小夜や周りから甲高い悲鳴が零れ落ちる。
「てめぇッ! なんなんじゃッ、急に出しゃばってきやがってッ!」
お前は関係ないだろうと怒鳴りつける男に周と由弦が前に出た瞬間、雪也がゆっくりと振り返った。いつもは柔らかな黒曜石の瞳の奥に凍てつく光を見たような気がして、男は気圧されたように息を呑む。男から視線を逸らさぬままに、雪也はゆっくりと立ち上がって男の刀を持った手を掴んだ。
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