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第134話

「僕は目の前に怪我をした女人がいたから手当てをしようとしているだけですが、そういうあなたは何用でこのような物騒な物を振り回しているのですか?」  ギリッと音が鳴るほどに雪也が強く強く男の腕を握る。腕力では男に敵わないとわかっている雪也は、彼の手首に伸ばしていた爪を食いこませた。これ以上力が籠められれば爪は男の皮膚を食い破るだろう。それは地味に見えるが、そちらに注意を逸らすには十分なものだ。 「きさまッッ」  男が爪の痛みに気を取られた瞬間、雪也は膝で男の手首を蹴り上げる。痛みに刀を落としたのを見た瞬間、駆け寄った周がその刀を両手に持って勢いよく後ろに下がった。 「まてッ! 小僧ッ! 俺の刀を――ッッ」 「刀が大事ですか?」  男が叫び周を追おうとするのを雪也が身体を滑り込ませることで遮る。 「当たり前だろうがッッ」  何を当然のことを問うのかと男は唾を飛ばして怒鳴りつけるが、雪也は視線を逸らすことも、腕を離すこともしない。 「大事と言うわりには、随分な扱いをしているようで。使用方法が非力な者を脅すことであるならば、刀など持たぬ方が良いでしょう。あなたには分不相応です」 「聞いておれば貴様ァッ。武人に刀を手放せと申すかッ!」  怒鳴り散らす男に小さく息をついて、男の腕を離すと周に近づく。そしてその手から刀を受け取ると、その切っ先を男に向けた。そのブレのない動きは、流石紫呉が教え込んだだけのことはあるだろう。

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