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第135話
「武人と名乗るのであれば尚更に、この刀の使い方はいただけませんね。刃こぼれしていますし、刀身は曇っている。どんな名刀も磨かず無茶な使い方をすればなまくらにもなるでしょう。そんななまくらを手に、誇り高き武人が茶屋のか弱い女子を脅すのですか? それはなんとも高尚なことで」
「――――ッッ」
首筋にピッタリと添えられた刀身に、男は身じろぐどころか声を出すこともできない。冷や汗を流す男に雪也は微笑むと、そっと首筋から刀身を離し、無駄のない動きで男の腰にある鞘へ刀を戻した。
「僕は詳しくありませんが、それでもこの刀はあなたの様子を見るに随分と上等なものなのでしょう。ならば尚更に、なまくらにしてしまうのは勿体ない。ちゃんと研ぎ、磨いて、堂々とその腰に差されれば良い。今度はその刀で脅すのではなく、守る為に振るわれれば良い」
先ほどの冷たい瞳など幻影だったかのように、雪也は穏やかな視線を男に向ける。その美しさと穏やかさは男から怒気を抜くには十分だった。ボンヤリとしたまま、男は己の腰にある鞘へ手を滑らせる。
「弱きを守るが力だと、ある人が言ったのです。弱きを守るために力を振るうのだと。弱きを脅すなど力にあらず、と。武人であられるあなたは、力をお持ちだと僕は信じましょう」
もはや男が刀を抜く様子は無い。それを確認した雪也は踵を返し、あまりのことにポカンと口を半開きにしたまま呆然としているお小夜の前に再び膝をついた。
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