154 / 647

第153話

「今は弥生と紫呉は城へ行っているんだ。よくわからないけど、雪也のことで話があるんだね? 中で聞くよ」  震える足で近づく周の手を優しく引いて、優は己の部屋へ誘うと茶と菓子を出した。 「で、どうしたの?」  茶にも菓子にも手をつけず俯いて、視線を彷徨わせている周に優はなるだけ優しく問いかける。元々話すことに慣れていない周は言葉を探すように視線を彷徨わせていたが、言葉で説明するよりもと思ったのか、懐から取り出したものを無言で優に差し出した。 「これは、雪也の作った薬だね?」  コクリと頷く周に、優は渡された薬包を見つめる。カサリと薬包を開き、中の粉末を確認した途端、静かに優は目を細めた。そんな優を周は心配げに見つめる。 「……それ、何かわかる? 良くないもの?」  わかるのならば教えてほしいと周は縋るように視線で訴えるが、優はゆっくりと瞬きをすると丁寧に薬包を元通りに畳みなおし、周に返した。 「雪也が作ったというだけなら、わざわざ周は僕の下に来ないはず。これ、どうしたの?」  雪也は薬売りだ。薬を作ることが仕事なのだから、彼が薬研の前に座り薬包をこさえるのはいつものこと。周がわざわざ来たことも無い春風の屋敷に一人で来て、優を呼び出したからには何かがあるはず。雪也に関する何かが。

ともだちにシェアしよう!