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第161話
「でもよ、それだと雪也の傷は治らねぇんじゃ……」
「ここに呼んで話をすれば最悪の場合、雪也は薬の服用を無理矢理止めてしまうぞ」
紫呉の言葉を遮るように言って、弥生は手の上にある薬包をクルクルと弄る。止めてしまうことの何が悪いのかと紫呉は不思議そうではあるが、優は弥生が何を言いたいのか分かったのだろう、小さくため息をついた。
「屋敷を出たいと願った時、あれは私にあれこれと理由を述べていたが、言葉にされない理由もあったのだと紫呉も知っていよう。確かに雪也は私たちに懐いてくれてはいる。だが完全に甘えることができるのか、弱みをすべて見せ、助けてと言えるのかといえば、答えは否だ。もしもそれが出来るなら、薬に頼る前に我々に話をしているだろう」
それに、と弥生は続けそうになった言葉を飲み込む。
(それに、服薬が先日からだとは限らんからな)
その気も無いというのに男から尻を撫でまわされ、嫁になれだの男娼だのと言われれば確かに嫌だろう。過去を思い出してしまったとしても不思議ではない。だがどうしても、弥生の中で雪也が〝二包み〟服用したことが引っかかっていた。もしも弥生が考える通りであれば、これは男のことをどうにかして雪也を宥めれば良いという問題ではない。
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