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第162話
「今ここで我々が服用の事を知っていると雪也に悟られれば、雪也は我々に心配をかけさせまいと服用を止めてしまうだろう。確かに過剰な摂取をしているのであれば止めねばならんが、適切な量であるなら服用は止めさせぬ方が良い。薬というものは、必要だから飲むのだ。それを止めさせては、事態は最悪の方にしか転ばない」
幸いに薬は優が教えた最良のモノ。身体に害を及ぼすものは含まれていない。ならば、今は様子を見るべきだろう。
弥生の言うことはしごく真っ当で、それが最善なのだろうということはわかる。だがそれでも紫呉は心配ゆえに渋面を作った。
「そう怖い顔をするな紫呉。これはそう簡単な話ではないのだろう。雪也を可愛く思う我々からすればすぐにでも苦しみを終わらせてやりたいと願うが、残念ながら現実は時間がかかる。我々が力づくでどうにかしたところで、雪也の記憶は薄れないし、苦しみも終わらない。雪也自身が、ケリをつけねばならん話だ。そうしなければ、前には進めん」
その日が来るまで、ただ見守り続ける方が良い。見守り、慈しみ、いつでも手を差し伸べて、雪也が望めば助けてあげられるように。私達は雪也の味方だと、教えつくして。
「だが、もちろん何もしないわけではない。紫呉、お前の力を借りようか」
先ほどとは打って変わり、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、弥生は紫呉に視線を向けた。そんな弥生に、紫呉もニヤリと笑い返す。
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