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第164話

 城下町以外であれば弥生たちの顔を知らない者が多いだろうから弥生や優でも情報収集は可能であろうが、あいにくこの辺りで弥生たちの顔を知らぬものはいない。近臣たる弥生や側近の優はどこか近寄りがたく、雑談をしようものなら何を探る気かと身構えられるが、気さくで快活な紫呉は役人たちとも仲が良く、顔を合わせれば冗談を交わしたりしていた。彼ならば顔が知られていたとしても問題はない。 「どうやらずいぶん短気な性格のようだからな。後先考えるような頭があれば、あのような場所で獲物も持たぬ町娘相手に刀など抜くものか。あのような手合いは、あらゆるところで騒ぎを起こしている。それを探るには、まず奴が誰であるかを探らねばならんが、とりあえず前科が無いか警部所で探ってきてほしい」  誰かがわかれば後は弥生と優の仕事だ。あらゆる〝騒ぎ〟を集めれば、その一つ一つは大したことのないものでも、集まれば罪に問われることもある。  男は知らないだけだ。刀を持つということは、責任が伴うのだということを。 「命まで取ろうとは思わんが、一度は牢獄に入って反省した方が良い。ま、私のは私怨だがな」  私怨と言い切る弥生であるが、法を犯すことは無い。近臣としての力も使わず、ただ淡々と法に則り恨みを晴らそうとするその姿に、優は「だから弥生は恐ろしい」と言ったが、紫呉からすれば弥生も優も同じくらい恐ろしかった。

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