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第165話

 夜になれば静けさにあれこれと思い出し、全身を掻きむしりたいほどの焦燥にかられるが、それも深い眠りに身をゆだねれば心地よく騒がしい朝がやってくる。朝は寝起きが悪くなってしまい、身体が少し重怠くなってしまうが、それでも思い悩むことよりは随分とマシであると、雪也はフワフワした頭で考えながら町を歩いていた。  今日は薬を届けるついでに買い物をしてくると周に約束した。きっと今頃は周と由弦の二人でおはぎを作っているはずだ。庵に漂っているであろうあずきの匂いを想像して、クスリと笑いながら雪也は蒼の店へ向かった。 「あ! 雪ちゃんいらっしゃ~い」  雪也に気づいてブンブンと手を振る蒼に、雪也も小さく手を振り返しながら小さく首を傾げた。  蒼は店番をしているのだから、彼の側に人がいるのは珍しいことではない。だが、今日そこにいたのは見たことも無いほどに美しい金髪の青年だった。 「久しぶり。お客さんの途中だった?」  ならば一人で野菜を見ているから後で大丈夫だと言う雪也に、蒼はいつも通りニコニコと笑みを浮かべながら首を横に振った。

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