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第202話
「なんか楽しそうだね~」
拳を上げた瞬間、後ろからのほほ~んとした声がかけられる。ビクリと肩を震わせ、慌てて振り返れば、いつの間にか蒼がそこに立っていた。
「あ、蒼!?」
子供っぽい所を見られたかと湊は顔を真っ赤にするが、蒼はそんなこと気にすることもなくニコニコと笑いながら手に持っていた皿をズイッと差し出した。
「弥生さま達がいっぱい持ってきてくれたリンゴ剥いたよ~。いっぱい動いてお腹空いてない? 汗もいっぱいかいてるみたいだし、水浴びしてからおいで~。リンゴ食べよ! 見た目からしてすごく美味しそうだよ~」
綺麗に皮を剥かれ、皿に乗せられたリンゴはとても瑞々しく美味しそうだ。思わずゴクリと三人の喉が鳴る。
「食いたい!」
「す、すぐ戻ってくるから!」
「よし、早く行って早く帰ってくるぞ!」
今にも庵に入っていきそうになる由弦の襟首をつかんで水場に向かいながら、湊が蒼に叫ぶ。そんな湊の横にいる紫呉は勢いよく湊の手から由弦を抱き上げると走り出した。
リンゴを見てあんなに喜ぶなんて、やっぱりお腹が空いていたんだなと蒼は笑みを深くし、彼らを待とうと庵の中に入って行った。
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