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第266話
「おや、周ちゃんじゃないか。今日は一人で買い物かい?」
うんうんと考えながら歩いていれば、よく玉子を買う店の女主人が声をかけてきた。その声に顔を上げて近づく。
「今日は何作るんだい? 玉子が必要なら、まけてやるよ」
口数の少ない周に最初こそ戸惑っていた町の者達も、今ではそれが周の性格なのだと理解してからは特に言葉を急かすこともなく、自分達のやりやすいように話す。それを静かに聞きながら、周はやはり首を傾げた。
「まだ、決まってなくて……。何か、いっぱい食べたくなるものある?」
誰が、とは言っていないが、周との付き合いも長くなってきた彼女は、周の言いたいことを正確に理解して、ふむ、と顎に指をあてた。
「そうだねぇ。多分うちの旦那とかと違って、雪ちゃんは味が濃いのは好きじゃなさそうだからねぇ」
まだまだ若いのだからガッツリとお腹に溜まるものが良いだろうと思うのだが、周や、時折訪れる弥生の話を聞く限り、味が濃ければ濃いほど雪也は食べない傾向にある。好みを把握して上手く品を売るのも商売人の務めだ。女主人はあれこれと献立を思い浮かべて、どれが一番良いかを考えた。
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