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第267話

「ちぃとばかし手間がかかるが、周ちゃんは器用だし、茶碗蒸しとかどうだい? もしあるなら中に小さく切った鶏肉とか入れても美味いよ。味も出汁だからねぇ、そんなにしつこいもんでもないし、雪ちゃんの口には合うんじゃないかい? あぁ、でも、由弦ちゃんには物足りないかもしれないねぇ」  小食の雪也とは違って、由弦は若者らしく味の濃い物を好み、よく食べる。この両極端な二人を満足させるのは骨が折れそうだ。周も大変だと彼女は苦笑するが、周は女主人の言葉に瞳を輝かせた。 「由弦には別に何か作れば良いから、大丈夫。茶碗蒸し、コツある?」  どうやら〝雪也の口に合う〟という言葉に反応したらしい。どうしたら美味しいかと尋ねる周に、彼女は丁寧に家で作っている茶碗蒸しの作り方を伝授した。真剣に聞きながらうんうんと頷いている周に、どこか胸が温かくなる。  一通りコツなどを教えて、必要な分だけのたまごを少しまけて渡す。ありがとうと言って周が小さく頭を下げた時、いつもならば聞かないざわめきが二人の耳に届いた。何事かと振り返り、人々が避けて作られた不自然な空間にある立派な籠を見つめる。見るからに春風家のような近臣が乗っているのだろう美しく立派な籠であるが、ここは城にほど近い町だ。そう多く見かけることもないが、珍しいわけでもない。近臣の籠があるだけでざわつくだろうかと周は首を傾げるが、女主人の方は何かを察したのだろう、呆れた顔をして小さく息をついた。

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