269 / 648
第268話
「あぁ、またやってんのかい。まったく、お大臣の好色にも困ったもんだ」
好色? その言葉の意味はよく知らないが、それでも彼女の様子を見るに、あまり良いものではないらしい。何か良くないことが起こっているのか? と眉根を寄せながら無言で視線を向けた周に、彼女は子供に説明してもよいものかと少し悩んでから、仕方ないとばかりに口を開いた。
「名前はおいそれと言えないんだけどね、あのお大臣は恋愛事がお好きなのさ。噂によりゃぁ、何人もの綺麗な女を屋敷で囲ってるらしいよ。そこでね、戯れるのさ。それで、お気に入りの女が死んじまったり、容姿が衰えたり、飽きちまったりしたらね、ああやって次のお気に入りを探しては誘い込むんだよ」
まったく、それほどに美しい女を抱きたいなら遊郭に行けばよいし、屋敷で囲いたいというならば娼婦を身請けしてやればよいというのに。身請けできるだけの金など十二分に持っているはずの大臣は、しかし初心な子が良いとでもいうのか、遊郭には行かずに、こうして町の女たちを物色しては、誘いをかけているのだ。
ともだちにシェアしよう!