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第314話
「でも、それは別にあんたや、あんたの父親が悪いわけじゃないだろ? 結婚してるなら、家の妻の母が~っていうのはわかるけどよ。雪也だって、あんたらのこと責めたりしないぜ?」
なにせ直接暴言と暴力を浴びせた相手にさえ、雪也は何かをしようとは思っていないのだ。結納すら済ませていない兵衛たちになら尚更、雪也は贖罪を求めたりはしないだろう。それは兵衛もわかっているのか、あっさりと頷きはしたが、しかし由弦が戻そうとした着物を受け取ることはしなかった。
「私たちが少しなりとも関わった者の母親がしでかしたことに申し訳なさは感じるが、父も私も、詫びという理由でこれを持ってきたわけではない。もう着替えは終わっているだろうが、それでも着物が濡れてしまったのは事実だろう。雪也さんが使っている着物の大半が弥生様や優様のお下がりだと聞いた。思いの籠ったものが濡れてしまうのは不憫でならない。何より、雪也さんが着物を一枚しか持っていないとは思わないが、それでも、全身ずぶ濡れになったと聞いて、乾いた着物を届けて差し上げなければと思った。父も同様だろう」
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