361 / 648
第359話
「言い返さないし、怒らないから何を言っても良いってまわりが思い込む。仕方がないって諦めるから、こいつには何をしたって許されるって勘違いをする。だって、普通に考えたらおかしいでしょ? 別に雪ちゃんが何をしたわけでもない、雪ちゃんが昔、男に囲われていようがどうであろうが、僕たちにはまっっっったく関係のないことなのに、雪ちゃんは押されて、水をかけられて、その桶も湯呑も鍋の蓋まで投げつけられて、そのうえ多くの人がいる外で罵られてるんだよ? 知らない人でも、知っている人なら尚更、水をかけたり物投げて怪我をさせるなんて恐ろしくてたまらないのに、それが躊躇いなくできる。まわりの人だって止めたり助けたりはできるはずなのに、結局雪ちゃんに駆け寄ったのは周だけ。どう考えても異常な場面なのに、誰も動かない」
城に近い町とはいえ、この町には貧しい者も多い。その日を生きるに精一杯の彼らが、高価な薬を買うことなど不可能。身体の不調があれば雪也に泣きつき、助けてもらった者も数えきれないほどいる。それでも、誰も助けなかったし、末子は罵倒する口を閉じることも、物を投げつける手を止めることもしなかった。末子もまた、雪也に助けられた一人であるのに。
ともだちにシェアしよう!