「罵倒されて、物を投げつけられて当たり前の人間なんていないんだよ。それをして良い人間もいない。でも雪ちゃんは、仕方がないと思ってる。周や弥生様たち、雪ちゃんが大切だって思ってる人がそれに悲しんでても、雪ちゃんは気づかない。仕方がないって、それが当たり前なんだって思い込んでるんだもん。だからね、雪ちゃんは馬鹿なんだよ」 　あんなにも賢くて、あんなにも優しいのに、どうして気づかないのだろう。それを思えば思うほど腹立たしくて、気づけば蒼の口調はどんどんと強くなっていった。そんな蒼を、湊は知らず優しく見つめる。 　珍しく厳しく強い言葉を使うから驚いてしまったが、そういうことだったのか。 「蒼も雪也の心配をしてるんだね。蒼は、雪也のこと大好きだから」 　自分達の中で、おそらくは一番長く雪也と関わり合ってきたのは蒼だ。蒼は庵に住んでいるわけではないのだから離れようと思えば離れられるのに、未だ頻繁に庵へ通って雪也の顔を見に行くのがその証拠だろう。