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第362話

 雪也は、確かに自分という存在を軽く見ているのかもしれない。蒼からすればなぜ、どうしてと思うことも多いだろう。だが彼は確かに、自分へ向けられた温かな感情を理解している。  先ほど、湊は周が告白すればと言った。蒼はそれを雪也は受け取らないと断言した。そうなのかもしれない。周の想いを雪也は受け取らないし、信じないかもしれない。けれど人というものは無意識のうちに胸へ抱くものだ。雪也はそれを自覚しないかもしれないが、きっとその想いが、雪也を足掻かせるだろう。生きる為に――。 「本当に、不器用だね」  蒼も、雪也も。  見栄えよく玉ねぎを並べ終えた湊はクスリと笑う。そんな湊を無言で見つめていた蒼は小さく息をついて帳簿を手に取った。 「じゃ、不器用ついでに言うけど、湊はいつまで僕と一緒にいるの?」  予想もしていなかった言葉に湊が勢いよく蒼を振り返る。それを感じ取っていながら、蒼は帳簿から視線を上げることは無い。 「あぁ、それが迷惑だって言ってるわけじゃないよ? 僕も湊と一緒にいるのは楽しいし。でも、湊はそれだけが理由で僕と一緒にいるわけじゃないでしょ?」  買い物に出るのも、庵に行くのも、湊は蒼と行きたがる。蒼が共に行けない時は静かに諦めて、決して一人で行こうとはしない。蒼の店にも裏道を通って来ており、店に父親の姿があれば顔を出すことさえしない。まるで蒼が傍にいなければ、生きていけないような。 今年一年、たくさん読んでいただき、ありがとうございました! 毎度のことながら年末年始の更新の内容があれで申し訳ないのですが、続きものなので許してやってくださいませ(汗) どうぞどうぞ、来年もよろしくお願いします! 皆さま、良いお年を~! 十時(如月皐)

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