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第373話

「上様――」 「もう、何も言うな。弥生」  茂秋が悟っていることを、弥生が悟っていないはずはない。茂秋が信じた彼は、そんなに馬鹿ではない。ただ彼は、嫌だ嫌だと駄々をこねているのだ。認めるようなことを言葉にしてしまえば、次の瞬間にはそれが本当になってしまうのではないかと幼子が迷信に怯えるように、頑なに縋っている。  けれど、口にしようがしまいが、その時は来る。ならば話せる今のうちに、すべてを伝えておかなければならない。 「……遺言には、次の将軍を、息子の鶴頼にとしておるが、現状では叶わぬだろう。……おそらくは、芳次が将軍となる」  鶴頼はこの倖玖城に来てから産まれたと報告を受けた静宮との息子であるが、彼はまだ産まれたばかりだ。さすがに産まれたばかりの子供が将軍として政を動かすことは不可能で、ならば鶴頼に将軍位だけを継がせて政は近臣が取り仕切るようにすれば良いかとも思うが、今の衛府ではそれが許されることは無いだろう。将軍が手綱を握らなければ、すぐにでも衛府は最悪な形で終焉を迎える。

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