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第390話
(ほんと、どいつもこいつも無意識に利用してッ)
雪也たちにはあまり見せたくないと表面上はニコニコと微笑んでいるが、蒼は胸の内でこれでもかと言わんばかりに毒づく。それでも、蒼はこの庵の住人ではないから何を言う権利もなく、結局こうして雪也にほんの少しの本音と忠告と、発破をかけることしかできない。それが歯がゆくて歯がゆくて仕方が無いが、線引きは必要だと自分に言い聞かせた。
「……蒼」
蒼の言葉を無言で聞いていた雪也が何かを考え込むように瞼を閉じ、そしてポツリと呟く。瞼を閉じていたとしても蒼が聞く体勢に入ったことがわかったのだろう、どこか言いづらそうに、息をするのと同じくらい簡単に紡げるはずの言葉を探して探して、雪也はようやく口を開いた。
「……それは、許されるかな」
静かに零された、確かな恐怖――そう、恐怖だ。
「色に塗れて、歳をとって醜くなって、あるいは単に飽きられて惨めに野垂れ死ぬだけだった僕を、弥生兄さまは助けてくれた。だからこそ、今の僕は生かされている。そんな僕が、助けられて恩を施された僕が、自分で線引きをして、看る看ないを選別して、悪い言い方をすれば見捨てることが、許されるかな」
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