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第398話

 紫呉は〝考えることは苦手だ〟と常々口にしているが、決して鈍いわけではない。彼がその地位にいるには、血筋だけではない理由が確かにあるのだ。それを月路も良く知っている。  決して声には出さなかったが、月路が視線で何を問いかけていたのか、紫呉が理解していないなどあり得ない。だから紫呉の言葉は正しく月路の問いかけに対する答えであるのだろう。だが、それの意味するところを月路は理解することができなかった。  月路はもう長く春風家に仕えている。当然、雪也が弥生に連れられて来た時も、屋敷で過ごす姿も、屋敷を出てからも、姿こそ見せなかったが影から見ていた。  確かに、生い立ちを考えれば憐れな子ではある。だが弥生に保護され、優や紫呉に構われる姿はそこらに生きる子供と同じだ。雪也自身も、子供のように弥生達を慕っていた。  無条件の愛を与え、受け取る。彼らは血縁こそないが、まるで親子や兄弟のように見えていた。そんな雪也の姿に、先程の紫呉の言葉はちぐはぐで、似つかわしくない。  グルグル考えたところで結局答えなど見つからず、しかし紫呉はそれ以上を月路に話す気はないようで、引き続き見張りと探りを命じると踵を返した。

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