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第399話
「弥生、入るぞ」
一言声はかけるが、今更遠慮などする間柄ではない。返事を待つどころか言葉の中ほどで既に障子を開いていた紫呉は中に入ると、優の膝に頭を乗せながら文に目を通している弥生をチラと見やり、無言で近くに腰かける。
「さっき月路が帰ってきた。ほら」
そう言って先程渡されたばかりの紙片を弥生に差し出す。無言で文を読んでいた弥生はようやく紫呉に視線を向け、その紙片を受け取ると、途端に小さくため息をついた。
「雪也か……」
「またバレたみたいだぞ」
小さく、けれど丁寧に書かれたその筆跡を、弥生が間違えるはずもない。諦めたように告げる紫呉に、紙片を見ていない優も中身を察したのだろう、小さく苦笑した。
「実に有能だと褒めてやるべきか、まだ信用されていない我が身を嘆くべきか」
どちらにせよ誇ってはやれないけれど。
要件だけの短い、けれども確かに弥生にとって有益なものが書かれているその紙片を、弥生は優の膝から起き上がると明り取りの火にくべて燃やす。その横顔に彼が何を考えているのかを悟って、紫呉もまた小さくため息をついた。
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