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第426話
今の話だけでも、雪也が確実性を何よりも重視していることがわかる。そんな彼が、困っているとわかっていながら面倒ごとを嫌うあまり庵に怪我人を放置するような町民をそのまま策に組み込むだろうか?
確信をもって疑いの眼差しを向ける蒼に、雪也は小さく息をつく。できれば何も言いたくはなかったが、蒼は許してくれないらしい。
「……頬を染め、瞳を潤ませれば、その姿は憐れ」
男達は思ったはずだ。雪也を助けたい、見つめられたい、自分の腕に囲って、閉じ込めて、乱れさせて、グチャグチャにしたいと。その為に、雪也の関心を引き、良く思われたいと。
だから、その為に――。
「雪也ッ!」
「ッッ――!」
叫んだのは、ずっと黙っていた周だった。いつもは大人しく、声を荒げることなど無い周の叫びに雪也は目を見開く。そんな雪也の胸元を、周は荒々しく掴んだ。
「なんでそんなことッ!」
目の前で瞳に涙を浮かべながら怒る周の姿に雪也は戸惑う。
周は子供で、色事や大人の欲など、知識としては知っていたとしても、雪也のあの言葉だけでわかるはずがない。わかるはずがないのに、なぜ、なぜ周はこれほどまでに怒っているのだろうか。
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