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第435話

「言葉にして伝えないモノは、必ずしも相手に伝わるなんて確証はどこにもないよ」  震え、叫ぶ周に、湊は淡々と告げた。その冷静さが逆に不自然で、周は顔を上げる。由弦も無言で湊を見つめた。 「周の思いは、俺や由弦にはわかる。多分、蒼や弥生様たちにもわかってると思う。でも雪也はわからない。今回周が怒ったことは、雪也も理解してる。雪也がとった行動に対して怒っているのだということも、わかってると思う。でも、雪也は正しい意味で理解できないだろうね。周や由弦、蒼が〝何が駄目で〟怒っているのかが、わからないから」  二度としないで。今回のことで怒っている。そう二人は告げていた。けれど肝心の〝どういう思いで〟怒っているのかは、言葉にしなかった。普通ならば、言わなくてもわかるのかもしれない。言葉にしなくたって、雰囲気などで察することができるのかもしれない。けれど雪也には無理なのだ。 「雪也は周たちの言葉を聞かないんじゃない。言葉の裏にある真意を読み取ることができないんだ。雪也はまだ、無条件で愛されることを信じてやいないんだよ」  搾取され続けた者は、差し出すことで己の居場所を認識し、安心する。何を差し出してもいないのに得られるものなど無いと、差し出し続けなければ一瞬のうちにすべてが消えてしまうのだと、本気で信じているのだ。雪也も――湊も。

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