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第436話

「だから、周が言葉にしてあげてほしい。面倒かもしれない、苛立つことだってあるかもしれない。それでも、周が雪也を想う内は、言葉にしてあげてほしい。そうすればいつか、雪也も……」  それは確信ではなく希望だった。周に――雪也に託す、静かで身勝手な希望。  雪也が信じることができたなら、もしかしたら、湊も……。  周を慰めながらも瞼を伏せた湊に、由弦は首を傾げる。足元に寄ってきたサクラを抱き上げて、サクラの顔が二人に見えるよう向きを変えた。 「二人して、んな深刻そうな顔すんなよ。時間がかかるのなんていつものことだろ? なら先も見えずに進むより、希望を持って進んだ方が楽しいじゃねぇか。〝悩んで止まっちまうくらいなら、考えずに進め〟って紫呉も言ってたし!」  それはなんとも、紫呉らしい言葉だ。それをいつどこで言ったのかは知らないが、その場に弥生や優がいたなら、多少は頭を使えと呆れた顔をしていたことだろう。 「ほら、サクラもそう思うよな!」  バンザーイと片手を上げれば、サクラもペロッと舌を出しながらニコニコと笑う。随分と真剣で苦しい話をしていたはずなのに、サクラの顔を見ているだけで重い空気が霧散し、クスリと思わず周が笑みを零した。

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