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第437話
「そんなに落ち込むくらいなら、こんなことしなきゃよかったのに」
横になることもできず、ペタンと座り込んだまま扉の方を見つめ続ける雪也にため息をひとつついて、蒼は側の桶に手拭いを浸してギュッと絞り、雪也の額を拭った。
「……周と由弦に心配をかけたのは申し訳ないと思ってるけど、でも、後悔はしてない」
「いや、そこは後悔しなよ」
ピシャリと否定すれば、雪也はようやく蒼に視線を向けた。
「確実を求めるなら多少の犠牲は仕方のないこと。周や由弦やサクラが犠牲になることを考えれば、僕が自分で自分を犠牲にした方が最小限で済む。最も害が少なくて、最も確実な方法だった。なら――」
「それは誰に対しての言い訳?」
焦るように、何かを隠そうとする幼子のように、話せば話すほど必死になって〝違うのだ〟と叫んでいた雪也は、蒼の言葉にヒュッと息を呑む。
身体は熱を持って汗をかくほどであるのに、冷水を浴びせられたかのような震えが走った。目を見開き固まる雪也に気づいているはずなのに、蒼は冷たい視線のまま雪也を射貫く。
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