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第484話

 由弦がどれだけ背伸びをし、追いつこうとしても、紫呉の背中はどこまでも広くて追いつけない。由弦には背負う事さえ許されないものも、易々と抱えてしまえるのだろう。  受け止める大きな手も、縋っても揺らぐことのない逞しい胸も、由弦にはない。もしも、もしもあの時にそれらがあったなら、雪也は、周は、あんな風に――。 「やっぱ八つ当たりじゃねぇだろ、それ」  首が落っこちてしまいそうなほどに俯く由弦にクツリと笑って、紫呉はクシャリとその髪を撫でた。腕の中でジッとしているサクラもまた、慰めるように由弦の手をペロペロと舐めている。サクラもきっと、由弦のそれが甘えだなどとは思っていないのだろう。やはり賢い子だ。 「八つ当たりだろ。だって、紫呉は仕事でいなかっただけなのに、いないことを怒ったも同然なんだから」  サクラの頭を優しく撫でながらも顔を上げず、ポツリポツリと懺悔するように瞼を閉じた。 「それは八つ当たりなんて言わねぇよ。お前はただ、ちょっと俺に甘えただけだ」

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