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第485話

 由弦は懺悔のように言ったが、要は紫呉がいればすべて良い方向に行ったかもしれないと思うほどに信じ、頼りにしているということだ。自分ではどうしようもできなかったその現実から助けてほしかったと願うのは、ほんの少しの甘え。まるで怖いものを前にした幼子が親に縋りつくように。敵を前にした女子が守り抱く男を頼るように。――そんな考えは、由弦にとって不本意であろうが。 「由弦も雪也も、世間一般的にはもう大人だ。だが、この庵で守られて良い存在は周だけじゃねぇよ。お前も、雪也も、別に甘えたって良いんだ。そうでもしねぇと、いつかは背負いすぎて潰れちまう。全力でのしかかるのは問題があるかもしれねぇけどよ、少し甘えたって嫌がったり、それを八つ当たりだなんて思わねぇよ。少なくとも俺は〝あぁ、頼ってもらえるくらいには信用されてるんだ〟って嬉しくさえ思うね」  紫呉の言葉は由弦が雪也たちを思う気持ちと同じものであるはずなのに、その声音は全く違う色を帯びているような気がして由弦は思わず無言で紫呉に視線を向けた。

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