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第543話

 静姫宮から預かった文を持って、弥生は芳次に事の次第を報告するとすぐに華都へ向かうために城を出た。懐には静姫宮の文と、同じく預かった芳次からの文がある。事が事だけに公にはできないが、役目としては将軍からの使者というところだ。このような時でなければ名誉ある役目と、懐かしい方とお会いできる機会だと喜ぶのかもしれないが、今はそのような気分にはなれない。  また長く武衛を離れる理由を僅かでも説明すべきかと考えて、弥生は側近である優と紫呉にのみ伝え、雪也たち庵の者にはただ仕事で離れるとだけ伝えることにした。 「どこへ、とお聞きしてはいけないのでしょうが……。このような時に武衛を離れられるのですか?」  今は少し離れていたとしても、弥生は近臣だ。秘密にしていなければならないことなど山ほどあるというのだから、あまりそれを聞き出そうとしたり、我儘を言って困らせてはならない。弥生に助けられてからずっとそのように自分を律していた雪也であったが、それでも今の情勢を考えると口に出さずにはいられなかった。まるで縋る子供のように、雪也はギュッと弥生の袖を掴んでいた。その無意識の行動に弥生は苦笑する。

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