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第544話
「そう難しいことをしに行くのではない。すぐに帰ってくるし、紫呉も連れて行くのだから心配しなくても大丈夫だ。それに、紫呉ほどでないにしろ、私も優もそれなりに刀は嗜んでいる。それは雪也も知っているだろ?」
こういう時、人間の勘というものは侮れない。何かを感じ取っているのかもしれない雪也に、弥生は努めていつも通りの笑みを浮かべ、雪也の肩をポンポンと優しく撫でる。その温もりに雪也は未だ不安そうに視線を彷徨わせながらも、ひとつ頷いて袖から手を離した。
「そう、ですよね……。ごめんなさい」
気持ち悪く纏わりついて、何度も振り払おうとしても頭から離れないそれを雪也は喉の奥に押し込めた。口に出して否定してほしい気持ちと、口に出した瞬間にそれが想像ではなく現実になってしまうのではないかという恐れ。それにそんなことを口に出して弥生に心配をかけたまま送り出してはいけないという自制。
様々な想いを隠し通そうとしている雪也に、弥生はあえて何も言うことなくいつも通りに振る舞い、周は無言で心配げな眼差しを向けた。
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