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第560話 ※
「遅くなってすみません。あの、これはいったい?」
雪也が戸惑うのも無理のないことだった。襖を閉じたことによって充満する異臭に、腹を抱えて蹲る大男。彼は顔を真っ赤にしながら脂汗を流し、カタカタと小刻みに震えていて、どうやら激しい腹痛が襲い掛かっていることが窺える。何より、彼の尻に敷かれた大きくて柔らかいであろう座布団が変色して濡れており、兵衛の言った〝大惨事〟が起こっていることは明らかだった。
チラと視線を向けた大机には食べかけの膳が置かれている。食事途中、それも減り具合を見るに食べ始めであろう時点でこのようなことになるとは、何か毒でも盛られたのか? 毒以外にも考えられるものはあるが、口にしてすぐにこれほどの腹痛となると、思い浮かぶどれにも違和感を覚えてしまう。
「わからん。久しぶりに時間が取れたからと、こやつから誘ってきたんで食事に来たら、急に黙り込んでな。次第に顔色が悪くなるんで、具合が悪いなら食事は止めにして帰った方が良いと言ったら、顔を真っ赤にして蹲ってしもうて、すぐにこの状態になった」
老主が説明をしてくれたが、まったくわからない。わからないままに薬を与えるのは危険だと、雪也は未だ襖の向こうにいた女中に水を持ってきてくれるように頼み、大男の側に膝をついた。
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