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第636話 ※

 ドサッ、と音を立てて男が地に倒れ伏す。これで相手は雪也の目の前で驚きを隠せていない男だけとなった。流石に雪也も身体のあちこちが血に染まり息を荒げているが、たとえ心臓を貫かれても立ち続けていそうなその姿に、唯一残った男は恐怖に刀を震わせる。  穏やかで、争いなどとは無縁のような青年だと思っていた。華奢な身体は刀を持つことも困難で、そう素早い動きをするようにも見えなかった。まさか、その細腕で易々と刀を振るい立ちふさがるなどと……。 「さて、あなた一人になりましたが、どうしますか? 私としては去っていただくことをお勧めしますが」  目に入らぬよう額から流れる血をグッと拭う雪也は、男よりもよほど傷を負っているというのに刀の切っ先はまったくと言って良いほどブレることはない。男の瞳にその刀で切られ、地に倒れ伏す己の姿が見えて、知らず背筋に冷や汗がつたった。しかし、今ここで引くわけにはいかない。 「去ったとして、そなたらの未来が変わることなどあり得ない。そなたは刀を振るうことができるのかもしれないが、他の者達は? もちろん、おかしな犬とやらを連れた男の方にも仲間が向かっている。戦う術の無い者が、助かるとでも?」 「なにを――ッ」  由弦の存在を匂わされ、雪也の瞳が鋭さを増す。怒気を隠そうともしない雪也の姿に、男は口を動かしながらも隙をうかがった。

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