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第663話
言葉とは便利なものだ。それが正義を謳うものであればなおさら良い。そこに心があろうとなかろうと、声を大きくして言えば自分に同意してくれる者を探し求めていた輩ほどコロリと騙される。目の前にいる者が私欲と己の地位安泰の為に動いているなどと、きっと想像もつかずに仲間と思い込んで命をかけてくれる。なんと得難く愚かなことか。
「時を動かすのはいつの時代も声の大きい集団よ。衛府の力が弱まった今、呑み込むのは容易い」
微笑んで酒を注ぐ美しい女を腕に抱き、そのたわわな胸を揉みしだきながら、松中はグイッと杯を傾けた。喉を焼く強い酒は程よい酔いをもたらして気分がいい。
「衛府の力が無ければ春風などただの弱小にすぎぬ。守れる力も無いと知ったあの若造がどんな顔をしているのか、今から見るのが楽しみじゃ」
鼻持ちならぬ餓鬼がゆきやを攫って行ったのがつい昨日のことのようだ。
「ゆきやも愚かなことよ。春風なんぞより儂の元へおれば、このように無残な最期を迎えることもなかっただろうに」
実に憐れだ、と口では言うものの、その顔は歪に歪みながらも哂っている。女はほんの少し瞼を伏せながら、努めて笑みを浮かべて空になった杯に酒を注いだ。
今年もたくさん読んでいただき、ありがとうございました!
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十時(如月皐)
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