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第666話
「平静を装うのは得意だと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしいと最近気が付いた」
予定通り整備されてはいるが人気の無い道を歩きながらクスリと弥生は笑った。そんな彼に優がチラと視線を向ける。
「その評価は初めて聞いたね。どちらかと言えば激情型だと思うけれど」
元から得意などではなかっただろうとバッサリ切り捨てる優に弥生は心底不思議そうに首を傾げた。
「そうか? 周りからは冷静沈着としか言われないが」
「それはチラッとしか見ないから気づかないだけだよ。何かあったら冷静だった試しなんてないくせに」
雪也を連れて来た時だってそうではないかと、口では呆れたように言っているが、優は弥生のその人間臭さが殊更気に入っていて、無くなってほしくないと切望している。それに、彼が感情に任せて言う言葉は大概が正しいのだ。耳にいたくて塞ぎたくなるほどに。
「随分な評価だ、と言いたいところだが、今の自分を把握できている以上、否とは言えないな。どうにも時が経てば経つほど苛立ちが膨れ上がって止まらない。必要性は理解しているが、こんな悠長に歩いていないで馬で駆けていきたい衝動を抑えるのがまた難しい」
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