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第673話

 目立たぬようにと馬を一頭しか連れていなかったのが裏目に出た。せめてもう一頭いれば、馬で駆け抜けるという選択もあったのだが流石に三人で一頭に跨り、この数えきれないほどの敵を蹴散らして駆け抜けるのは不可能だ。  彼らは弥生を殺せればよいのだからいくらでも捨て身になれるが、こちらは何としてでも弥生を守らなければならないため、どうしても選択は限られる。  戦力も、物資も、体力も、欠けずに護るには何もかもが足りない。 「仕方がないね。紫呉、弥生を連れてしばらく隠れていて。僕が馬に乗ってここから離れる。奴らも馬は一頭しかいないと知っているだろうから、弥生が馬に乗って逃げたと錯覚させることはできる。僕と弥生は背格好が似ているからね。大半が僕を追って来るはずだ。少しは残るかもしれないけど、紫呉ならそれくらい薙ぎ払えるね?」  静かに走りながら最善を出した優が紫呉を振り返る。彼は思っていることだろう、紫呉ならば、その武力をもってして弥生を武衛まで送り届けることができると。しかし紫呉はそうは思わない。 「いや、駄目だ。俺がここに残って奴らを減らす。ちょうど月路が来ているからな、俺が残って顔を隠したあいつが馬で逃げれば、弥生が馬に乗って逃げたと奴らは信じるだろう。優が一人で化けるよりよっぽど信憑性があるってもんだ。だから、お前らは隙を見て逃げろ。上手くいけば次の街につく途中で月路が馬を渡してくれるだろう。それが無理なら馬を買って衛府まで走れ。いいな?」  月路が来ているという言葉に弥生は目を細めるが、紫呉はそれ以上を言うつもりは無い。そんな悠長な事をしている場合でもないだろう。

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