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第687話

 もともと芳次と春風家は相容れない存在だ。忠誠は誓っているが、茂秋が亡くなって当主も弥生も衛府から遠ざかったのが良い証拠だろう。もちろん、今から考えればそうでなければ将軍になったばかりの芳次は思うように動けなかったであろうし、春風も本来の力を発揮することなく潰されていた可能性が高い。それを見越して茂秋は芳次というより春風を守ろうとして命令したのであろうが、それが今、芳次を、ひいては衛府を守る唯一の力となっているのは何の因果であろうか。 「今、本当に春風家は無事だと思うか? 聞けば当主は衛府にいらっしゃるようだが、弥生殿は別行動されているらしい。何をしておられるのか私なんぞにわかるはずもないが、おそらく弥生殿の側にいるのは秋森と夏川だろう。忠義ある者たちだが、戦力は夏川一人となると、今の時世には心許ない。なにせ将軍家の頼みの綱が春風家だと隠せなくなっているのだ。当然敵からも味方からも狙われる。そしてこれを無事に乗り越えたとて、本当に彼らの安全は保障されるのだろうか」  まるで否定してくれと懇願するような呟きだった。だが、それを否定できるものを何一つとしてこの場にいる者達は持ち合わせない。

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