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第689話

「それをあの方たちは望みますまい。それに、例え誰であったとしても混乱は必定。芳次公はこのような時代に将軍になった不運な方ではありますが、同時に春風家が味方であるという幸運な方でもいらっしゃる。だからこそ成せるものもあるでしょう。どの道、春風家は頂点に立つには向かない家です。自由に動き回り、思うままにその心を尽くすからこそ彼らの真価が発揮されるのでしょう」  これでよかったのだ。少なくとも、この時代に生きる無辜の民にとっては。  その言葉に東の領主は小さくため息をつき、茶を飲んだ。  叶うならば、それほどまでに心砕いた春風にとってもまた〝これでよかった〟と言える未来であってほしい。  気持ち悪く胸を覆いつくす黒い霧を努めて見ないようにし、武衛の方へツイと視線を向けた。

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