705 / 981
第701話
遠くで空気が揺れた気配がする。誰かの叫び声、そして刃のぶつかり合う音。振り向き、紫呉の安否を確認したい衝動に駆られるが、弥生は唇を噛んで前を向いた。
振り向けば戻ってしまいそうになる。躊躇えば足がもつれる。泣けば呼吸が乱れる。今の弥生には、どれもが許されないことだ。
隙を作るな。前を見ろ。気配を消し、躊躇わず進め。それが紫呉に対して弥生ができる、たったひとつのことだ。
(必ず帰ってこい。必ずだッ)
胸の内で紫呉に叫び、弥生は走り続ける。その姿を優がチラと見つめていた。
ともだちにシェアしよう!

