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第703話

 ここまでくれば、少々無茶ではあるが武衛まで休みなく馬で駆けることは可能だ。立ち止まっては隙が生まれる。駆け抜けた方が勝機はあるだろう。そんな弥生の考えに月路は強く頷き、小さく頭を垂れて次の瞬間には木々に紛れるようにして姿を消した。彼を見送ることなく弥生は手綱をとり馬に跨る。すぐに優も弥生の後ろに跨った。弥生の腰に腕を回し、ピッタリと隙間なく身を寄せる優は肉の盾だ。もしも矢で攻撃されたとしても、優がその身でもって弥生を守る最後の盾となる。 「やぁッ!」  馬の腹を蹴り駆けだす。疲れを見せない馬蹄の音を聞きながら、弥生と優は周囲の気配を探った。  紫呉と月路が上手く対処してくれたのだろう、今のところ敵の存在は確認できない。見られている気配も、命を狙う殺気も感じない。このまま何事も無ければ良いが、と弥生はほんの少し瞼を伏せる。 (紫呉……、月路……)  彼らは大丈夫だろうか。弥生を狙う敵の多さを鮮明に覚えているがゆえに、どうしても不安が拭えない。紫呉も月路も弥生が信頼する武人だ。弥生が知る中で誰よりも強い。大丈夫、大丈夫と胸の内で繰り返すが、どうしても振り返ってその姿を確認しそうになる。  もしかしたらどこかから馬を調達して、駆ける弥生に追いついてきてくれるのではないか。そんな願いが胸中を犯した。

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