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第716話
「だが、滅ぼして、そしてその後はどうする。滅ぼして終わりか? 人は生きている限り明日がきて明後日がくる。雨風を凌げねば身体を壊し、何もしなくとも腹は減る。食わねば死ぬのは子供でも知る当たり前のことだ。衛府を滅ぼし、それで終わりとするのであればさてどれほどの人間が死ぬだろうか。ただ衛府にいたというだけで高官でもないというのに刀で切り殺されるか、それともなんぞの罪科を押し付けて晒し首にでもするか、そうでなくともすべてを奪われて庇護もないとなれば寒さと飢えで死に絶える。その中に、さて子供は何人いるのだろうか。大人であれば自らの選んだ道だとあるいは言えるかもしれぬ。だが、生き方すらまだ自らで選ぶことのできぬ幼子は、何の罪があって死なねばならぬのだろうか。それを良しとするのであれば、衛府を滅ぼさんとしているそなたらは、誠に衛府よりも善人であるのか」
罪のない幼子まで救おうとしないのであれば、そこにどんな大儀があるというのだろう。救おうとしないのに無辜の民の為と声高に叫ぶのであれば、随分と厚顔だ。
「もう一度、余は問おう。滅ぼした後に、そなたらは何を成せるのか」
救うのか。衛府を滅ぼした象徴としてのたうち回りながら死にゆくのを笑い見物するのか。
あなたたちは他者を想う高潔の士か。多くの悲鳴と苦しみを喜ぶ惨殺者か。
静かな問いかけが領主たちを試した。
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