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第718話
春風を相手にするならば策を二重にも三重にもするべき。そう言ったのは浩二郎たちを支援してくれた織戸築の光明だ。彼もこちらに参加できぬ代わりに姿を眩ませた弥生たちを追っている。織戸築の諜報は優秀だ。きっともう弥生を探し出してその心臓を貫いていることだろう。弥生が来ないならば、いかに春風当主といえど万策尽きる。春風に頼り切ることしかできぬ芳次など尚更だろう。
「我々がッ! 我々こそが衛府を守り歴代将軍を守ってきたのですッ!」
唾を飛ばして叫ぶ近臣に浩二郎はフン、と鼻で嗤った。ここまできても相変わらず近臣どもは矜持を手放すことができず、訳の分からぬことを喚きたてている。念のため見定めようとここに来たが、結局は浩二郎たちの予想と何も変わらない。さて、いつ攻撃を仕掛け、仲間に合図を送ろうか。そんなことをつらつらと考えていた浩二郎の耳に、やけに静かな声が聞こえた。
「領主すべてが、とは言わぬが、それでも幾人かは過激派と通じているのはわかっておる。心の底から衛府の滅亡を願っている者がいることも」
ピクリ、と僅かに眉が跳ねる。なるほど、城に引き籠るだけの無能ではなかったということか。あるいは、春風当主が入れ知恵をしたのかもしれない。だが、今更知って何になる。もはや滅びを受け入れるしか道は無いというのに、まだ足掻こうと言うのか。
カチャリと僅かに音が鳴る。それを皮切りに皆が抜刀した。
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