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第720話
〝生き方すらまだ自らで選ぶことのできぬ幼子は、何の罪があって死なねばならぬのだろうか〟
問いかける声が脳裏によぎる。あの子は、なぜ死なねばならなかったのだろう。
彼らが弥生の気に掛ける存在だったから。
弥生が止まらねばこの崇高なる志は道半ばで途絶える可能性が高かったから。
弥生を止めるには一番の手立てだと言っていたから。
弥生がどうあっても衛府側の人間だったから。
雪也が弥生と親しかったから――――。
(どうしてあの子は、あの庵に居たんだろう。どうして、雪也を慕ったのだろうか)
そうでさえなければ、死なずにすんだ。浩二郎が手にかける必要もなかったというのに。
無意識に瞼が落ちる。あの子供どころか、数えきれないほどの人間に手をかけてきた。この手は既に真っ赤に染まっている。それでも国の未来のためには、ひいては娘の未来のためには必要なことだと心の底から信じていた。否、今でも信じている。たとえ己が血に塗れ、生きても地獄、死んでも地獄となっても、娘やこの国の人々に温かで光あふれる世界を渡せるのならば充分に価値のあることだと。
なのになぜ、あの子の姿が脳裏にチラついて離れないのだろう。数えきれないほど切り捨て、もはや個々の顔すら覚えていない。だというのに、あの子の胸を貫いた感触だけはずっと手に残っていた。
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