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第734話
もしもを考えないわけではない。後悔しないわけでも、誰をも憎まないわけでもない。生きていてほしかった、無事に帰ってきてほしかった、それはまごうこと無き弥生の本心だ。けれど、自らが、紫呉が選んだゆえの結果であるのならば、受け入れなければならない。私兵を動かしたわけでも、紫呉を手にかけたわけでもない杜環にあたり恨みつらみを吐くなど論外だ。
「……その未来に、弥生殿が幸せになれるものが溢れているのだろうか」
そうであればいい。願いにも似た杜環の言葉に弥生はゆっくりと瞬きをした。
「わかりません。希望を捨てたわけではなく、諦めたわけでもありませんが、私は人であるがゆえに多くの事に関して無知無力ですから、不安はあります」
華都から帰ってくる時、紫呉の様子がほんの少しおかしかった。詳しいことは何一つわからないが、それでも彼が弥生や優に対し何かを隠しているのだけはわかった。探るように、そうとは悟られぬよう言葉を紡いだこともある。決定的なものは何もわからないが、どうにも嫌な予感が拭えない。だが、今の弥生にはそれを確かめる術も余裕もなかった。
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