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第736話
蟄居といっても、屋敷に籠ってさえいれば良いだけの話だ。もともと屋敷の中に娯楽を多く持っていた松中はさほど苦痛に思うこともなく、今日も女たちを侍らせて酒をくらっていた。
衛府が解体されれば、近臣はどうなるかわからない。今頃他の近臣たちは不安を抱えているだろう。あるいは不満の塊になっているかもしれない。だが尊皇の志士たちと通じていた松中は自身の安泰を確信しており、何を不安に思うこともなく毎日宴のように女を抱き、酒を呷り、美食を腹いっぱいに食らった。
蟄居が解かれた後も、衛府が解体された後も、自身は何も変わらない。地位も金も女も酒も、何もかも無くなるものではないのだ。
ある意味で、松中は唯一の勝利者だと笑った。
「春風も愚かよな。こんな世の中にあって衛府の為に動けば共に滅びるしかないというに。あんなに身なりを汚して得たものが地位と財産の剥奪など、私ならゾッとするわい」
勅書を手に乗り込んできた弥生の姿を思い浮かべては可哀想になどと松中は呟くが、その顔はニタニタと笑みを隠すことができない。
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