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第739話

 客? と松中は赤ら顔のまま眉間に皺を寄せる。これだけ騒いでいるが、それでも名目上は蟄居の身だ。だというのに訪ねてくる者が、それもこんな夜にいるのだろうか?  酒でボンヤリした頭でもやはり不思議に思い、松中は口をつぐむ。だというのになぜか女たちは松中の返事を聞くことなく立ち上がり、勝手に襖を開いた。おそらく膝をついて隠れていたのだろう、ニュッと奇妙な動きで影が入り込んでくる。影がと思うほどに真っ黒な装いであったが、その髪が光り輝く金だとわかり、ようやく目の前の影が人であることがわかった。ジッと、無言のままにその碧玉の瞳が松中を見つめている。 「何者じゃ。誰の許しを得てここへ入ってきた」  まだまだ年若い、外国の血を持つ青年。松中の知り合いにそのような特徴を持つ者などいなかった。ジッと無言でこちらを見つめるその青年に気味の悪さを覚えて後ろに下がろうとする。だが、松中の身体はピクリとも動かなかった。

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